R3予備試験 刑法 再現答案

第1 乙の罪責

1 乙がXの首を絞め窒息死させた行為につき同意殺人罪(202後段)が成立しないか。

2 上記行為は殺人の実行行為たりうる行為であり、これによりXの死という結果が生じている。

3 そして、Xは「死にたい、もう殺してくれ。」と言っていたことから「嘱託」があるようにも思える。しかし、乙はXの態度から上記発言が真意でないことを認識していたし、「あれはうそだ、もうやめてくれ」と言われたのちも上記行為を継続しているのであり、「嘱託」があったと考えることはできない。

4 以上から、乙には同意殺人罪(202後段)ではなく、殺人罪が成立する。

第2 甲の在籍

1 甲がY宅から本件ダンボールを盗んだ行為につき、窃盗罪(235)が成立しないか。

(1) 「他人の物」とは、他人の占有する財物をいうところ、自己の所有物であっても他人の占有している財物は「他人の物」にあたる(242)。

(2) 「窃取」とは他人の物の支配を自己または第三者に移す行為を言うから、上記行為は「窃取」にあたる

(3)  甲は上記行為を認識・認容していたから故意がある。

(4)  明文の用件ではないものの、使用窃盗及び毀棄隠匿罪(以下)との区別のために不法領得の意志が要求される。不法領得の意志とは、権利者を排除し、物から何らかの経済的効用を得ようとする意志をいう。

   これを本件についてみると、甲は本件段ボール箱をYに返還しようとする意志は認められないし、本件ダンボール箱を取り返すことで、脱税の通報や口止め料100万円の支払いを免れることができ、さらに本件帳簿を取引に用いることができるから、何らかの経済的効用を得ると言える。

(5)  以上から、上記行為に窃盗罪が成立する。

2 甲が本件帳簿にライターで火をつけ、ドラム缶に投入した行為に建造部等以外放火罪(110②)が成立しないか。

(1) 放火とは焼損を惹起する行為を言い、焼損とは、目的物が火の媒介物を離れ、独立に燃焼を開始することをいう。

  ライターによって帳簿という燃えやすい物質に着火する行為はそれ自体焼損の危険が存在するから上記行為は放火にあたる。また、上記行為により、本件帳簿は独立に燃焼を開始し、「焼損」した。

(2) 「公共の危険」とは、放火による危険は延焼の危険にとどまらないことから、延焼の危険のみならず、他人の生命・身体・財産に対する危険を含む。

  本件では、上記行為によって漁網へと延焼し、もって釣り人5人及び原動機付自転車に危険が生じているから、「公共の危険」が生じたと言える。

(3) では、「公共の危険」は上記行為に「よって」生じたと言えるか。因果関係の有無が問題となる。

  因果関係は行為の危険が結果に現実化したと言いうるときに認められる。

  上記行為は立ち入り禁止の防波堤で帳簿をドラム缶に入れて燃やすことを内容とした行為であるところ、このような場所で紙を燃やせば、それが舞い上がり霧散することは通常想定しうることであるから、上記行為には網への延焼を通して「公共の危険」を生じさせる危険が含まれていたといえ、これが現実化したと言えるから、因果関係も認められる。

(4) 甲は上記行為を認識・認容していることから故意が認められる。なお、甲は上記のような「公共の危険」が生じたことを認識すらしていないが、「公共の危険」は故意の対象にならない。

  なぜなら、「よって」との文言から「公共の危険」は加重結果であると考えられるし、仮にこの故意を求めれば実質的に108.109条の故意を求めることになり妥当でないからである。

(5)  以上から、上記行為に建造部等以外放火罪(110②)が成立する。

3 甲がXの首を絞める乙を止めなかった行為につき、殺人罪の幇助犯(199.62①)が成立しないか。

(1) まず、甲はXは死について承諾があるものと真に誤信しており、またXの死を望んでいたわけではないから正犯意志が認められず、また乙との意思連絡も認められないから、共同正犯(60)も成立せず、正犯として罪責を負わない。

(2)  幇助犯の成立要件は①幇助行為②正犯の行為との因果関係③幇助の故意である。

(3)  まず、上記行為は不作為による幇助であるところ、処罰範囲限定の見地から、幇助行為と言えるためには(ⅰ)作為義務(ⅱ)作為可能性及び作為容易性が要求される。

  これを本件についてみると、上記行為当時、Xを助けることができたのは甲のみであるため排他的支配が認められ、またXは甲の実父であり、Yは妻であるのだから、乙を止め、Xを助けるべき条理上の義務があった。そうすると、甲は乙に声をかけたり、乙の両手をXの首から引き離そうとしたりするべき作為義務が存在し、かつこれは容易かつ可能であるから、これに反する不作為は幇助行為といえる。

(4) 幇助犯における因果関係は、必ずしも犯行を確実に防止し得たものである必要はなく、犯行を困難にしうるものであれば足りる。

   よって、因果関係も認められる。

(5)  甲は客観的には殺人の幇助を行っているが、主観的には同意殺人の幇助を認識していたのであり、故意が認められるか。

  故意とは、犯罪事実の認識認容を言うところ、異なる構成要件に該当する事実を認識していた場合、故意は原則として認められない。もっとも、認識事実と実現事実の間に構成要件的重なり合いが認められる場合、軽い罪の限度で犯罪事実の認識・認容があったと言い得るから、この場合には軽い罪の故意が認められる。

   甲は、客観的に殺人罪、主観的に同意殺人罪の幇助を実現しているところ、両罪は減軽類型に該当するものであるから、重なり合いが認められる。

   よって、同意殺人の幇助の故意が認められる。

(6)  以上より、上記行為に同意殺人罪の幇助犯が成立する。

 

予想:B  評価:A

刑法は最後の抽象的事実の錯誤の問題を故意の問題としてしまった以外は大体ミスらしいミスはしていなかったと思う。1つや2つのミスなら十分Aがつくことを学べた。

刑事系は特に得意とは思っていないが、短答も満点取れたし、司法試験でも得点源にしたい。