R4 司法試験 再現答案 民訴法

令和4年司法試験 民訴 の再現答案です。

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評価:A

 

設問1

第1 課題1

1 被告が甲となるような見解について

被告の確定ついては、当事者が、当該訴訟において被告として行動した者であるかを基準とすべきである。

 本件では、原告たるXは、甲を被告とする意思を有しており、訴状等にも乙たる「株式会社Mテック」が記載されている。しかし、Xは乙と甲を誤認しており、また、Xは本件賃貸借契約における事実上の相手方たる甲社を相手方とする意思で本件訴訟を提起している。さらに、訴訟代理人たるAはX社とY社の誤認について当初明らかにしておらず、このことからも本件訴訟において被告人として行動した者は甲であると言える

 したがって、本件訴訟における当事者たる被告は甲である。

2 被告が乙となるような見解について

 被告の確定の基準については、基準の明確性の見地から、訴状に表示された者を当事者と考えるべきであるが、一切の記載を鑑みて決する。

 本件では、訴状の記載欄には「株式会社Mテック」と表示してあるところ、本件訴訟提起時点において、かかる表示は乙を意味する。また、訴状に添付されている代表事項証明書は、乙に関するものであり、このことからも被告は乙であることが読み取れる。

 したがって、本件訴訟における当事者たる被告は乙である。

第2 課題2について

1 まず、Aのした陳述に、自白が成立するか。

(1) 自白とは、口頭弁論期日または口頭弁論準備手続における、相手方の主張する自己に不利益な事実を認める旨の陳述をいう。

なお、「不利益」かどうかは、基準の明確性から、相手方が証明責任を負う事実を言うものと解する。

 本件訴訟の訴訟物は、Xの乙に対する賃貸借契約の終了に基づく本件事務所明渡請求権であるところ、請求原因(1)・(2)・(3)はこの請求を基礎づける事実と言える。また、これらの事実は、Xの乙に対する建物引渡請求権が発生するための事実であり、Xが証明責任を負う事実である。

(2) また、本件における被告は乙と確定されているから、かかる自白は無効とならない。(34条1項2項参照)。

 したがって、乙の上記陳述は自白にあたる。

2 第3回口頭弁論期日における乙の自白の撤回は認められるか。

 自白に不要証効(179条)が認められ、かつ弁論主義第2テーゼによる裁判所拘束力が認められるから、自白により生じる相手方の保護及び禁反言の見地から、自白には当事者拘束力が認められ、原則として撤回することは許されない。

もっとも、当事者拘束力の認められる上記趣旨に反しない場合、当事者拘束力の例外を認めて差し支えない。具体的には、①当該事実が真実に反しかつ錯誤の場合②刑事上罰すべき相手方の行為によって自白がなされた場合③相手方の同意がある場合のいずれかにあたる場合には、例外的に自白の撤回をすることができる。

 まず、乙の自白は真実に反するものであるが、乙の代表者Aは自ら甲の商号を変更し、乙を新設した者であるところ、錯誤は認められない(①不充足)。また、乙の自白について、甲の刑事上罰すべき行為は認められない(②不充足)。

 したがって、裁判所としては、甲の準備書面において乙の自白の撤回に同意する旨の主張がない限り、自白の撤回を排斥しなければならない。

設問2

1 判例において明文なき主観的追加的併合が否定されているが、以下の通り、本件では、明文なき主観的追加的併合が認められる。

2 判例は、①新訴につき旧訴の訴訟状態を利用できるとは限らないため訴訟経済に適うとは限らないこと、②訴訟が複雑化するおそれ、③軽率な提訴や濫訴が増えるおそれ、④訴訟遅延のおそれから、明文なき主観的追加的併合を認めない。そうだとすれば、かかる理由付けが全て本件において妥当しない場合には明文なき主観的追加的併合を認めて良い。

3 本件訴訟における主要な争点は、本件賃貸借契約の当事者が甲か乙かという点になるところ、これを前提とした場合、Xとしては、乙の本件訴訟の主張を基に、X甲間の訴訟においてX甲間の本件賃貸借契約締結事実を主張することが可能であり、本件訴訟の訴訟状態を新訴に流用可能である。また、本件におけるAの一連の行為に鑑みれば、X甲間の訴訟において、甲はAの自白の追認を信義則上強制させられることもありうるのであり、X甲間の訴訟において完全な訴訟状態の流用が可能となる可能性すらある。

また、本件訴訟と新訴の主要な争点は、いずれも本件賃貸借契約の当事者が甲か乙かという点で共通するところ、それ以外に何らかの争点は無く、訴訟が複雑化するおそれもない。

確かに、たとえ本件で限定的に主観的追加的併合を認めたとしても、認めたことそれ自体で3つ目の理由づけが妥当するのであり、本件においても主観的追加的併合が認められないようにも思える。しかし、本件訴訟においてXが被告を間違えた理由は被告側が巧妙に当事者を分からないように登記を修正したためであり、代表者事項証明書には、会社の設立年月日の記載がなく、Xが乙を甲と誤認したことには正当な理由があるといえる。このように、本件のX甲間の訴訟は、とりわけ主観的追加的併合を認める必要が大きい事案なのであって、このような限定的な場合のみに主観的追加的併合を認めるとすれば、必ずしも軽率な提訴が増えるおそれもない。かえって、こういった場合にすら主観的追加的併合を認めないと、不当な手段による時間稼ぎが事実上認められることになり、妥当でない。

そして、本件では、一度口頭弁論が終結したにもかかわらず乙の陳述によって弁論が再開されたものであり、現在の訴訟遅延は乙によるものであるし、前述のとおり本件訴訟と新訴の主要な争点は共通する以上今後の訴訟遅延のおそれもない。

4 以上から、本件では、上記判例の理由付けが妥当しない場合であるといえる。

5 よって、本件では、明文なき主観的追加的併合が認められる。

 設問3

1 USBメモリは、「情報を表すために作成された物件で文書でないもの」(231条)に該当し、231条が適用されるか。

USBメモリが「文書」に該当するか。

(1) まず、法は文書提出命令に違反した場合の制裁として、当該文書の「記載」に関する相手方の主張を真実と認めることができるとしているのであり(229条参照)、「文書」とは、何らかの情報等が記載されているものと考えることができる。

(2) また、231条で列挙されている物は、情報等の記載がされているものの、それ自体で情報を感知することはできず、何らかの媒体を介して情報を知覚できるという点で共通する。  

   そうすると、文書とは、何らかの情報等が記載されているもののうち、直接その情報を知覚することができるものと言える。

(3) そして、USBメモリはその内部データに情報等が記載されているものの、それを知覚するにはコンピュータに接続する必要があり、情報を直接知覚できるものとは言えない。

(4) したがって、USBメモリは「文書」に該当しない。

3 それでは、USBメモリは「情報を表すために作成された物件」にあたるか。

(1) 同条においてビデオテープ等が書証として取り扱われる趣旨は、これらの物は単に直接に情報を知覚できないのみであり、何らかの機械等を用いれば、かかる情報を知覚できるため、書証と同様の証拠調べをすることが可能である点にある。

そして、USBメモリについても、上述の通り、コンピュータ等を解して内部の情報を知覚できる。

(2) したがって、USBメモリは「情報を表すために作成された物件」にあたる。

4 よって、USBメモリに231条が適用される。