R4 司法試験 再現答案 経済法

令和4年司法試験 経済法 の再現答案です。

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1 X社は、Y社の本件行為が、競争者に対する競争妨害(独占禁止法2条9項6号ヘ、一般指定14項)にあたり、19条に違反するとして、24条により差し止め請求を行う。

2 まず、本件行為により、XはY社製甲向け乙の製造販売が不可能になり、これにより売上高の減少、販売不可能な在庫の発生が見込まれる上、設備変更に投資をしたばかりであることから、Xの経済的な「利益」が「侵害される恐れ」があり、またこれにより「著しい損害を生じ」ることになる。

3 では、本件行為は19条に違反するものと言えるか。

⑴ 「事業者」とは、一定の経済的利益の供給に対応する反対給付を反復継続して受ける者をいうところ、Yは甲及びY社製甲向け乙を製造・販売する者だから、「事業者」にあたる。

   XとYは、日本国内において、「通常の事業活動の範囲内」において「事業活動の態様に重要な変更を加えることなく」、甲のユーザーという「同一の需要者」に「同種の商品を供給する」から、「国内において競争関係にある」と言える(2条4項1号参照)。

⑵ 「妨害」とは、相手方とその取引の相手方との取引に対し悪影響を及ぼす者であるところ、その影響は間接的なものでも良い。

本件行為は、Y社製甲の仕様を変更し、非純正品のY社製甲向け乙の使用を不可能とするものであるところ、これにより非純正品を製造販売するX社は甲のユーザーからの取引を拒否されることは明白である。 

  よって、「妨害」の要件も満たす。

⑶ 「不当に」とは、公正競争阻害性があることをいい、同条では、自由競争減殺が問題となる。

ア  自由競争減殺とは、競争の実質的制限に至らない程度の競争制限効果がることをいう。

(ア)  まず、前提として市場を確定する。市場は目的物と地理的範囲から成り、需要の代替性を基礎に、供給の代替性を加味して画定する。

 乙は甲のために不可欠な交換部品であるところ、乙は各社製の甲ごとにそれぞれ専用のものが必要であり、Y社製甲向け乙と他社製甲向け乙との間では需要の代替性が認められない。一方で、乙は、XDE社が非純正品として各社甲向けの乙を製造・販売しているが、甲を取り扱うYABC社は自社製向けのものしか製造していない。また、各社製甲向け乙の製造には設備変更が必要となっていることも考えると、乙には供給の代替性が認められるとは言えない。

 本件では、地理的範囲を日本とする以外の特段の事情は認められない。

 よって、本件における市場は日本におけるY社製甲向け乙の製造販売市場になる。

(イ) では、かかる市場において競争制限効果が認められるか。

  まず、本件行為が実施されれば、非純正品を取り扱うXDE社はY社製甲向け乙の製造販売が不可能となることから、本件市場におけるY社のシェアは100%に上昇することになる。

  さらに、非純正品は低価格を武器に近年、純正品から合計で約10%のシェアを奪い取るなど本件市場において競争を活発化させる働きを有していたのであり、非純正品を市場から締め出す本件行為は、価格競争、ひいてはブランド内での競争を消滅させるものとして競争に与える影響が大きい。

  これに対し、Yは甲の製造販売市場において、最下位で20%のシェアを有するに過ぎず、本件行為を行ったとしても、甲のユーザーの乗り換えなどの危険があるため、本件行為によったとしても市場支配力がもたされるわけではないとの反論(Yの主張前段参照)が想定される。

  確かに、仮にY社が本件市場において100%のシェアを有することになり、これにより価格引き上げに動いた場合であっても、交換部品の差異から、他社製の甲に乗り換えを検討したり、Y製の甲を購入するユーザーが減少したりすることが考えられるため、本件市場でもなお競争制限が認められないようにも思える。しかし、甲のユーザーは、甲の購入時に乙についての負担を十分に認識しておらず、甲の製造販売市場における競争への影響が直ちに生ずるとは言えない。よって、上記反論は失当である。

  さらに、本件市場には輸入品は存在せず、またその計画を有するものは存在しない上、ABC社がY社製甲向け乙の製造販売に参入する計画もない。

  以上を踏まえれば、本件行為は本件市場における競争を制限するものといえる。

イ これに対し、本件行為は商品の安全性確保のために行われるものであり、正当化自由が認められるから、形式的に自由競争減殺が認められても、なお「不当に」とは言えないとの反論が考えられる(Yの主張後段参照)。

   この点、形式的に自由競争減殺が認められる行為でも、法の究極目的(1条参照)に反せず、必要かつ相当な手段と言える場合には、正当化事由が認められ、「不当に」の要件を満たさない。

   本件行為は、製品の安全性を確保するために行われているところ、これは「一般消費者の利益」にもつながるものであり、法の究極目的に適合するように思える。しかし、乙において発火事故が生じたのはC社製甲向け乙に関してであり、Y社製甲向け乙において安全性に疑問を抱かせる事情は発生していないのだから、これを基礎付ける事実に欠け、究極目的に反しないとは言えない。

   また、仮に究極目的に反しないとしても、そのために非純正品を一切使えなくさせるような仕様変更を行うことは相当性に欠けるものと言いうる。

   よって、本件行為には正当化事由は認められない。

 

 したがって、「不当に」の要件も満たす。

 よって、本件行為は19条に違反するものと言える。

4 以上から、Xの差し止め請求は認められる。なお、本件行為が私的独占(2条5項、3条前段)に当たるかも問題となりうるが、私的独占は差し止め請求の対象とならないため、本件では問題とならない

 

 

第2問 再現率70%

設問(1)

第1 X社が従来の「希望小売販売価格」に変えて「販価」と表記し、また、参考である旨の記述を削除して、取引先小売業者に通知した行為について再販売価格の拘束(独占禁止法2条9項4号イ)として法19条に反しないか

1 まず、Xは、甲製品を製造・販売する業者だから「事業者」にあたる。

2 そして、上記行為は、甲を取引先小売業者に対し、販売価格の管理の名目で実施されたものであり、また取引先小売業者もそのように認識しているものだから、「販売価格」に関する「条件」と言える。

3 「拘束」とは、契約上の義務として課されていなくとも、なんらかの経済的不利益によりその実効性が確保されていれば足りる。

  まず、上記行為が実施された令和2年4月においては、X社の上記行為は単なる要請とも取れるものであり、これが契約上の義務となっていたものでも、これに従わないことがなんらかの経済的不利益になっていたものとも評価することはできず、「拘束」があったとは言えない。

  一方で、令和2年10月時点では、販価通りの販売をしなければX社製甲の販売を停止する旨の通知を合わせて行っている。X社の甲は、全体の販売台数においてシェアを約30%かつ第一位を有するものであり、取引先小売業者にとってはX製の甲を取り扱うことが営業上有利となっている現状を踏まえれば、かかる要請に従わずに「販価」とは異なる価格設定を行えば競争上不利になることが予想されるため、経済的不利益によって実効性が確保されていると言える。

  よって「拘束」が認められる。

4 「正当な理由がないのに」とは、公正競争阻害性を有することをいい、同条では自由競争減殺が問題となる。再販売価格の拘束は、価格競争という重要な競争手段を消滅させるものだから、原則として違法であり、特段の事情が認められない限り、正当な理由がないのに」との要件を満たすことになる。

(1) まず、前提として市場を確定する。市場は目的物と地理的範囲から成り、需要の代替性を基礎に、供給の代替性を加味して画定する。 

 甲には代替する商品はなく、また日本国外を市場とするべき特段の事情もない。

 よって、本件では、日本国内における甲の販売市場が市場として確定される。

(2) そして、本件では販売価格の管理を行おうとするXの意図、上記行為によりX社製甲を値引き販売する業者がいなくなっていること、特段の正当化事由が認められないことからすれば、上記特段の事情があるとは言えない。

  よって、「正当な理由がないのに」の要件も満たす。

5 次に、違反行為期間について検討する。

  まず、始期については、再販売価格の「拘束」が認められることになる令和2年10月ということになる。

  次に、違反行為期間の終期は、違反行為が実施されなくなった日を言うところ、再販売価格の拘束は、自由な販売価格の決定を制限する違反類型であるから、実施されなくなった日とは、相手方が自由に販売価格を決定することができるようになって時点をいうと解する。 

  Xは、令和4年1月に取引先小売業者に対し、従前の通知、要請、措置等の撤廃を表明し、「希望小売販売価格」へとその表記を戻しているものの、その後も現在に至るまで値引き販売はほとんど行われていない。過去には値引き販売が一定数行われていることにも鑑みると、これは上記表明によって自由な販売価格の決定が回復したと見ることができず、なお上記行為の影響が残存しているものと言え、令和 4年1月の時点において、取引先小売業者が自由に販売価格を決定することができるようになったものとは言えず、現在も違反行為は継続していると考える。

  よって、違反行為期間は、令和2年10月から現在もなお継続中ということになる。

 

設問2(2)

第1 Y社がY社製光製品の販売にあたり、その使用方法等を説明することを義務付ける条項を取引契約に追加した行為は、拘束条件付取引(法2条9項6号二、一般指定12項)として法19条に反しないか。

1 Y社も甲製品を製造・販売する業者であり、「事業者」にあたる。

2 また、上記行為は、再販売価格の拘束にも、排他条件付取引にも当たらない。

3 そして、「拘束」とは、契約上の義務として課されていなくとも、なんらかの経済的不利益によりその実効性が確保されていれば足りる。

  上記行為は、本来事業者が自由に設定できる販売方法について、契約内容に説明義務を追加することによりこれを制限するものだから、契約上の義務として課されているものであり、「拘束」と言える。

  また、Y社の甲は、全体の販売台数においてシェアは約20%で第3位に止まっているものの、 1部のユーザから高く評価されており、ユーザの中にはY社の甲を指名して購入するものも少なくなく、取引先小売業者にとってはY製の甲を取り扱うことが営業上有利となっている。そうすると、取引先小売事業者は、かかる契約内容の追加に従わなければ、競争上不利になることから、事実上追加を認めざる立場にあるものといえ、経済的不利益によって実効性が確保されていると評価することもできる。

  よって、「拘束」の要件を満たす。

4 「不当に」とは、公正競争阻害性を有することを言い、同条でも自由競争減殺が問題となる。

  まず、市場については、(1)同様、日本国内の甲の販売市場が画定される。

  そして、いかなる条件で取引内容を決定するかは当事者の自由な意思に委ねられるものであるから、拘束条件付取引の場合、行為要件を満たしても原則として違法となるわけではない。特に、販売方法に対する拘束が問題となる場合、その競争への影響は比較的軽微であり、かつ消費者の利益にもなるから、①その制限に合理的な理由があり、②かつ同様の制限が他の事業者にも適用されている場合には「不当に」の要件を満たさない。

 Y社製の甲は、その特有の機能ゆえに一部の購入者から高い評価を受けており、それにより本件市場においてY社は存在感を有していることからすれば、その有する機能について十分な説明を加えることが重要であると言える。一方で、こういった説明を不要ないし煩わしいと感じる購入者や、低価格販売のために説明を省略したいと考える小売業者も存在するが、前者については使用歴に応じた説明で足りるとされるため、合理性を否定する根拠にはならないし、後者についても、そのような経営方法が制約されることのみを持って合理性を否定する根拠とするには乏しいのであり、これらの事情により合理的な理由が否定されるわけではない(①充足)。

 また、本件における説明義務は取引先小売事業に対し意図を説明した上で取引契約に追加されているのであり、同様の制限が他の事業者にも適用されていると言える(②充足)。

 よって、「不当に」の要件を満たさない。

5 以上から、本件行為は拘束条件付き取引に当たらず、独占禁止法に違反しない。