R4 司法試験 再現答案 刑法

令和4年司法試験 刑法 の再現答案です。

ご利用は自己責任でお願いします。

 

評価:A

 

設問1

第1 主張(1)について

1 横領罪と占有離脱物横領罪(254条)との区別のために、書かれざる構成要件として、委託者と占有者の間に委託信任関係が必要となる。

2 この点、本件におけるA甲の合意は、盗品である本件バイクの保管にかかる合意であるため、このような委託信任関係は保護に値しないとして委託信任関係の要件を満たさないとするとの考えもある。

3 しかし、このような委託信任関係であっても、これを保護しないとして横領罪の成立を否定すれば経済法秩序保護の観点から問題がある。また、委託信任関係を保護法益とする以上、たとえ盗品に関する委託信任関係であってもこれを保護すべきである。

4 以上から、主張(1)は正当である。

第2 主張(2)について

1 「横領」とは、不法領得の意思を発現する一切の行為をいい、不法領得の意思とは委託の任務に反し、権限がないのに、所有者でなければできないような処分をする意思を言う。

2 甲A間の合意では、 本件バイクガレージで保管することが約束されているため、これを同意なく甲の実家へと運び出す行為は、委託の任務に反しかつ権限のない行為と言える。

  一方で、甲は、本件バイクを自ら利用したり廃棄したりするなどの意思はなく、仲違いしたことをきっかけにAを困らせる目的で本件行為に及んでいる。 しかし、自ら利用し又は処分する意図がなかったとしても、本件行為は甲宅から5キロメートル離れた甲の実家の物置と言う、他者が容易に発見できない私的領域へと本件バイクを隠す行為であり。その所有権を相当程度害する行為であることに違いはない。

そうすると、自ら利用処分する意思がないことを理由に、所有者でなければできないような処分をする意思がないと考えることはできない。

3 以上から、本件行為は「横領」にあたり、主張(2)も正当である。

設問2

第1 乙が、Aの右上腕部を本件ナイフで刺し、これにより加療約3週間を要する右上腕部刺創の障害を負わせたこと行為について傷害罪(204条)が成立しないか。

1 上記行為は、人の生命を害する危険を有するため傷害の実行行為と言える。また、これによりAは上記のような傷害を負っている。

そして乙はこれらの事実を認識・認容しているため構成要件的故意も認められる。

2 もっとも、上記行為は甲を助けようと考えて行った行為であるから、正当防衛(36条)として違法性が阻却されないか。

  「急迫」の「侵害」とは、法益侵害ないしその危険が現存または切迫していることをいう。そして、正当防衛は、国家による権利救済を期待できない緊急状況において例外的に自力救済を認める点に趣旨があるところ、急迫性は緊急状況性基礎づける要件であるから、侵害の予期が認められる場合に、急迫性の要件が認められるか否かはその先行する状況等を総合的に踏まえて判断すべきである。具体的には、従前の関係、侵害の予期の有無・程度、侵害行為の行われる場所へ出向く必要性、武器の用意の有無等を総合的に考慮し、正当防衛の趣旨に反するか否かによって決する。

 本件では、甲とAは本件バイクを巡る一連の喧嘩により仲違いしていたところ、甲は電話でAを挑発するかのような言動を繰り返し、これに対しAが激怒し、制裁を仄めかすなど、甲とAが出会えば紛争へと発展することが十分に予想されていた。

 さらに、甲も、Aと過去に同じ不良グループに所属していたことから、Aの短期で粗暴な性格や過去に暴行を振ったことなどを認識しており、Aが甲に制裁を加えることについて相当程度の侵害の予期があったと言える。

 一方で、甲がAに呼び出されたC公園へと出向く必要性はさして認められない。

 また、甲は公園に出向くにあたり、刃渡り15センチの本件包丁を携帯しており、攻撃に対する加害の意思も認められ、かつ、十分な防御手段であるから、かかる事実は緊急性を否定する事実と言える。

 以上を踏まえると、甲には例外的な自力救済を認めるにたる必要性はなく、刑法36条1項の趣旨に反すると言えるから、「急迫」性の要件を満たさない。

  よって、正当防衛は成立しない。

3 もっとも、乙は甲への侵害を誤信している。そこで誤想防衛として責任故意が阻却されないか。

  故意とは犯罪事実の認識・認容を言うところ、違法性阻却事由の存在を誤信していた場合、犯罪事実の認識・認容があったとは言えないから、責任故意が阻却されることになる。

  そこで、甲の認識した事実において正当防衛が成立するか検討する。

  まず、乙は、甲がAの侵害を予期していたことを知らず、Aが甲に一方的に攻撃を食え会えていると思い込んでいたことから、乙の主観的意図において甲に対する「急迫」の「侵害」が認められる。

  また、「不正」とは刑法上の違法を指すところ、乙の主観においては上記Aの侵害行為は違法な行為であり、乙は甲を助けるために上記行為に及んでいるから「防衛するため」の要件も満たす。

  「やむを得ずにした」とは、防衛行為として相当性を有することをいう。

   上記行為は、本件ナイフという刃渡り18センチメートルもの危険な凶器を警告なくAへと突き刺す行為であり、それ自体相当危険性の高い行為であると言える。

   一方で、乙が刺した箇所は、右上腕部と言う身体の枢要部ではなく、危険な部位に対する行為とは言えない。しかし、Aと甲は同じくらいの体格・年齢の男性であり、かつAは何ら武器を携行していなかったことを考えれば、かかる事実のみを持って相当性を肯定することはできない。 

  よって、上記行為は「やむを得ずにした」とは言えない。

  以上を踏まえると、上記行為は、乙の主観においても正当防衛にあたる行為と言うことができず、違法性阻却事由を誤信していたとは言えないから、責任故意は阻却されない。

4 以上から乙の上記行為には傷害罪が成立する。もっとも下記の通り、36条2項の準用により、刑の任意的減免を受ける。

  36条2項は「防衛の程度を超えた」場合、すなわち相当性の要件のみ欠ける防衛行為について刑の任意的減免を規定しているところ、かかる減免の根拠は緊急状況において相当性を超える防衛手段をとることに対して非難可能性が減少する点にある。

  そしてこのような非難可能性の減少という根拠は、誤想防衛の場合においても妥当するから、36条2項は誤想過剰防衛の事例において準用することができるものと解する。

 本件においても、上述の通り、相当性以外の要件をみたいしており、誤想過剰防衛の事例と言える。

 よって、36条2項が準用される。

第2 乙が、Dに無断で本件原付を発進させた行為について窃盗罪 (235条)が成立しないか。

1  「他人の財物」とは、他者の占有する他人の財物を言い、占有の有無は、占有の事実と占有の意思を相関的に考慮して決する。  

   まず、本件原付は、Dの所有物であるものの、道路脇に鍵をかけずに停車されていたものであり、Dによる事実的支配は弱まっていたものと言える。

     一方で、Dは飲食物の宅配をするため 付近のマンション内に立ち行っていたのであり数分もすれば本件原付を再度自ら利用することが予想されるのであり、また本件原付に対する占有の意思が弱まっていると考えられない。

   そうするとDは、本件原付に対する占有を直ちにかつ容易に回復することができた状態にあったといえ、本件原付にはDの占有が認められる。

   よって、本件原付は「他人の財物」と言える。

2 そして、上記行為は、Dの占有を排除し、乙の支配下へと本件原付を移転させるものだから、「窃取」にあたる。

3 また、乙は上記事実を認識・認容しているから故意も認められる。

4 もっとも、 乙は上記行為をAからの追跡を振り切るために行っているのであり、緊急避難(37条1項)が成立し、違法性が阻却されないか。

  乙は、激昂したAから追跡されており、「生命」ないし「身体」への「現在の危難」が認められる。

また、乙がAからの追跡 を振り切るためには上記行為を行うことが唯一取り得る手段であり、 かつ、本件原付という「財産」と乙の「生命」「身体」では後者の方がより重要な法益と言うことができ、「これによって生じた害が避けようとした街の程度を超えなかった場合」の要件も満たす。

 そうすると、緊急避難が成立するかのように思える。しかし、Aによる乙の追跡はそもそも乙の第一で検討した傷害罪に当たる行為によって惹起されたものであるから、自招避難として、なお緊急避難が成立しないのではないか。

緊急避難により違法性が阻却される理由は、正対正の状況にあるとは言え、緊急避難の要件を満たす行為は社会通念上相当な行為といえるから違法であるとの評価が受けないことにある。

そうだとすれば、形式上緊急避難の要件を満たす行為であっても社会通念上相当と言えない場合には緊急避難として違法性を阻却すべきでない。

第一で検討した行為は甲を助けようとして行われたものであるとは言え、正当防衛も誤想防衛も成立しない行為なのであり、Aによる乙への危難は、乙自身の過失によって惹起されたものと言うことができる。

このような行為によって惹起された行為への非難行為は、社会通念上相当なものとは言えないから、自招避難として緊急避難は成立しない。

 よって、緊急避難として違法性が阻却されることもない。

5 以上から、乙の上記行為に窃盗罪が成立する。