R3予備試験 民事実務基礎 再現答案

○民事実務基礎

設問1

(1) 賃貸借契約に基づく賃料支払請求権 1個

(2) YはXに対し、55万円を支払え。

(3) ①XはYに対し、令和2年6月15日、甲建物を賃料月額10万円、存続期間3年として貸し渡した。

   ②令和2年12月31日は経過した。

(4) ⅰ抗弁とは、請求原因事実と両立し、発生した法効果を消滅・障害・阻止する効果を有する事実をいう。

  上記事実は上記①②の事実から生じた賃料支払請求権のうち5万円に関する部分を消滅させるいわゆる一部抗弁であるから、抗弁としての性質を有する。

  従って、上記主張を持って抗弁として取り扱うべきである。

  ⅱ上記事実はXにとって不利益な事実を認める旨の陳述であり、かつ相手方の陳述に先行するものであるから、先行自白としての意味を有する。

  先行自白は相手方が援用すれば、通常の自白と同様に不要証効(179①)、裁判所拘束力、当事者拘束力を発生させる。また、仮に援用がなくとも、裁判所が上記事実が存在するとの心象を抱けば、上記主張を判決の基礎とすることができる。

設問2

1 債権者代位(423)の方法によれば、債権回収を図りうるが、被代位者の処分権限は失われない(423の3)から、仮にAがYに売掛債務を支払えばYにはめぼしい財産がない以上、Yは満足を得ることができない可能性がある。

2 一方、仮差し押さえ(保全20)によれば、これにより債務者弁済禁止効(53)が生じるから、売掛債権が消滅する可能性はなくなり、ここから満足を得ることができる。

3 以上から後者の方法。

設問3

(1)ⅰ①BはXに対し、令和2年8月1日、弁済期を同年10月15日として、Xに50万円を貸し渡した。

②令和2年10月15日は経過した。

③Xは、Bと上記貸金債権の履行に変えて、XのYに対する貸金債権を譲り渡すことを合意した。

  ⅱ債務者への通知・承認は譲渡人が債務者に対する対抗するための要件であって、債務者が譲受人・譲渡人に対して対抗するための要件ではないから。

(2)  未だ権利が未発生のためならない。

設問4

第1 本件契約書について

1 文書の成立の真正について

    私文書は「本人の署名または押印」があればその成立の真正が推定される(228④)ところ、その署名または押印は意思に基づくものでなければならない。

(1) まず、本件契約書におけるYの署名は、明らかにXの筆跡によるものであり、意思に基づくものとは言えない。

(2) そして、押印については、実印は通常他人に用いられることはないとの経験則から、印影と印象が一致すれば、意思に基づく押印が事実上推定され、ひいては文書全体の成立の真正が推定される。

  本件契約書においてはYの印鑑と同一の印影による押印ではあるものの、これは岩ゆる三門判であり、上記経験則が妥当しないから、意思に基づく押印が事実上推定されるわけではない。

また、仮に推定が働いても、当該押印はXがYの印鑑を盗用してなされたものであるから、意思に基づく押印であると考えることはできない。Xは週2日という頻度でYたくを訪れていたところ、三門判はY宅の今の引き出しという探すのが困難とは言えない場所に保管されていたのであり、その在り処を知っていたとしても不思議ではなく、また実際に12月中旬に留守番でXがY宅を捜索する機会も存在している。

(3) 以上から、本件契約書の成立の真正は否定される。

2 そうすると、本件契約書は形式的証拠力が否定されるから、本件契約書をもって賃貸借契約があったとの事実を推認することはできない。

第2 その他の事情

1 Xの主張によれば、XとYは令和2年7月から本件建物の賃貸借契約を締結しているものの、令和3年1月になるまで賃料の請求を行っておらず、不自然な行動がある。この点、XはYの店の経営がうまくいっていないことや娘の夫であることから賃料の支払いを求めなかったというが、Yの店の経営がうまくいっていない事実は存在せず、合理的な説明ではない。また、Xの娘とYは婚姻していたものの、令和3年に入り不仲となり別居するようになったのであり、存在しない賃貸借契約を主張する動機もある。

  また、YはXの主張する賃貸借契約の初めての賃料支払日である令和2年7月30日に5万円を弁済しているが、これはXから借りた金を返しただけであり、賃料を支払ったわけではない。

2 以上からすれば、やはり両者の間に賃貸借契約が締結されたとの事実は認められない。

 

予想:CかB 評価:B(合わせて)

実務は最低Bは取りたいと思っていた。

要件事実は、論文当時、経過と到来をきちんと理解していない、「履行」と「成立要件」を意識していないなど、今思い返すと、勉強が不十分であり、本番とても焦った。近時は要件事実は論文・口述とも難易度が上昇しているし、かつこれらは合否に直結するので、早めかつ濃厚な対策をすべきと思う。

細かい問題はどうせみんなできないと、事実認定に力を入れたが、この判断は間違っていないと思う。民事実務は要件事実と事実認定でほぼ決まると思う。

事実認定では、「三文判ってどうすんだ?」となったが、①推定否定 ②推定覆す事情として使うの2つが思い浮かんだので、両対応できるような論述とした。