R4 司法試験 再現答案 憲法

令和4年司法試験 憲法 の再現答案です。

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評価:A

 

設問1

第1 決定①について

1 決定①は、同じA研究所の研究員のうち、Yのみについて不支給決定をしたこと(以下、本件別異取扱い)は、平等原則(憲法14条1項)に反しない。

(1) まず、「平等」とは、相対的平等を指し、一切の区別が許されないわけではなく、合理的理由のない区別が禁止されているものであり、本件別異取扱いが憲法14条1項に反するかは事柄の性質上許されないものであるかによって決する。

(2) そして、助成金の交付の場面においては、その財源の問題や給付基準に絶対的な基準がないことなどから、A研究所ないしX大学に広範な裁量が認められるため、その合憲性は緩やかに判断すべきである。

  具体的には、かかる裁量の逸脱・濫用となる場合、すなわち決定①が著しく不合理なことが明白な場合に限られる。

(3) まず、決定①は、①過去の助成金の支出先である本件ウェブサイトにYの政治的意見が記載されたり、団体Cにも利用されたりしていること②同様に支出先である出張において、無報酬でX県産業を批判する講演をしていたことを理由とするものである。

  まず、本件助成金は、「地域経済の振興に資する研究活動を支援する」ために、X大学の教員のうち一部の者にのみ交付されるものであるところ、政治的意見の掲載や大学の系列に属さない団体Cのために助成金が使用されることは、このような目的に合致するとはいえず、①を理由とすることは不合理なものとは言えない。

  また、同様に、無報酬でX県産業を批判する講演を行うことは、「地域経済の振興に資する研究活動」とはいえず、かえってこれを毀損するものであり、このことはX大学の教員や県議会議員から批判を受けていることからも推認される。

  以上を踏まえれば、本件においてYに助成金を交付しないと決定したことは著しく不合理であると言えず、裁量の逸脱・濫用とは言えない。

(4) 以上から本件別異取扱は14条1行に違反しない。

2 次に、Yに対し、助成金を交付しなかったことは、Yの助成金の交付を受け、自由に研究・教育を行う自由を侵害するものでなく、憲法23条に違反しない。

  •  憲法23条は学問の自由を保障しているところ、その一内容として、研究遂行の自由が保障される。

 しかし、かかる自由は、公権力から研究の遂行を妨げられないという防御権として保障されるにすぎず、積極的に助成金の交付を受ける自由をも保障するものではない。 

  •  そうだとすれば、上記自由は憲法23条による保障を請けず、上記行為が憲法23条に違反することにならない。

3 以上から、決定1は憲法に違反しない。

第2 決定2について

1 X大学が、「地域経済論」の不合格者の成績評価を取り消し、他の教員による再試験・成績評価を実施することは、Yの自由に成績評価を行う自由を侵害するものではなく、憲法23条に反しない。

2 学問の自由は、その一内容として教授の自由を保障しているが、成績評価は、教授そのものではなく、単に学生の習熟度を図るものだから上記自由は23条により保障されない。

3 また、仮に23条による保障を受けるとしても、大学は、自らいかなる講義を開講するかカリキュラムをどのように設定するかの決定権を有しているのであり、かかる決定権に講義の担当者を決定する効能も含まれていることからすれば、不適切な講義の遂行に対し、適切な介入・是正を行う統制権を有しているのであり、Yの上記自由はかかる統制に服するものである。

  そうだとすれば、この統制権の行使が不合理でない限り、上記自由に対する制約は認められず、23条に反することはない。

4 Yの「地域経済論」の講義においては、Y執筆のブックレットが用いられており、期末試験においてもかかるブックレットについて学術的観点からの検討が課題として出題されている。しかし、この課題への評価においては、ブックレットを批判した学生の多くが不合格となり、事実、批判的な学生の成績評価が全体として著しく低いことも確認されていることからすれば、大学の成績評価として公正なものとは言えない。

  さらに、「地域経済論」は卒業のための必修科目なのであり、このような不当な成績評価を是正する必要性も高く、決定2は統制権行使として不合理なものでなく、上記自由への制約とならない。

5 以上から、決定2は憲法23条に違反しない。

設問2

第1 決定1について

1(1) まず、本件別異取扱いは、①過去の助成金の支出先である本件ウェブサイトにYの政治的意見が記載されたり、団体Cにも利用されていること②同様に支出先である出張において、無報酬でX県産業を批判する公演をしたりしていることを理由とするものであり、「信条」による区別であるとして、その合憲性は厳しく判断しなければならないとの反論が考えられる。

  (2)  この点、判例は14条1項後段列挙事由について、これは単なる例示列挙に過ぎないとし、このことをもって厳格に判断する必要なない旨判示している。

   しかし、後段列挙事由は、過去によく差別が行われてきた事柄を列挙したものであり、かかる事由による区別には慎重な判断が必要であると考える。

   そこで、Yに助成金を交付しないと決定するにあたり判断過程に著しく不合理なてんがあったりした場合には違憲になると解する。

(3) まず、A研究所は特に優れた研究実績のある者が所属する研究機関であり、助成金は研究を支援するために交付されるものであることからすれば、その決定の判断に当たっては、研究実績を考慮すべきである。

  Yは、地域経済の発展について構造転換を主張し、かかる論文が国内外で高い評価を受けているほか、ブックレットについても地方紙から好意的な書評を掲載されるなど、優れた実績を有しているものと言える。

  また、Yのウェブサイトや出張においては、X県の現行政策に対する批判的な意見の掲載や講演を実施するなど、政治的な面に関与している一面はあるものの、Yの地域経済に関する主張は現行の政策と相容れるものではなく、一方で、このような批判的意見が議論を深化させる面もあるため、これらのことをもって「地域経済の振興に資する研究活動」ではないということはできず、これらの事情を過大に考慮するべきでない。

  以上を踏まえると、決定1は、考慮すべきことを考慮せず、一方で考慮すべきでないことを過大に考慮したものとして判断過程に著しく不合理な点があったといえ、最良の逸脱濫用が認められる。

(4) 以上から、決定1は憲法14条1項に反し、違憲である。

2(1) 次に、憲法23条1項は、給付請求権まで保障しているものではないが、本件助成金は、これまでに研究員全員に対し研究助成金が交付されていることからすれば、助成金の交付を求めることも研究遂行の自由の一内容となっているとの反論が考えられる。

 (2) 確かに、給付請求権であっても、それが法令により具体化されているなどして、憲法上の権利として保障されていると考えることができる場合もありうる。

   しかし、本件における助成金の交付に関する過去の取り扱いは他なる事実上の運営にすぎず、交付を求める権利は未だ期待権と呼べるものにとどまっている。

   そうだとすれば、上記自由は未だ憲法上の権利として保障されているとは言えず、上記反論は失当であり、決定1は憲法23条には反しない。

第2 決定2について

1(1) Yは、成績評価についても教授の自由として当然に保障されることを前提に、成績評価についてYには完全な教授の自由が認められるから、決定2のような統制を及ぼすことは許されず、決定2は23条に反すると反論することが考えられる。

 (2)  まず、成績評価は、教授そのものではないものの、講義の総決算として教授行為と密接な関連を有するものであるから、これが23条によって保障されないと解するのは失当である。

   また、判例は、教師の教授の自由について、初等中等教育においては生徒に批判能力が十分でないことから完全な教育の自由は認められない旨判示していることからすれば、十分な批判能力を有している高等教育においては、完全な教授の自由を認めることができるようにも思える。しかし、成績評価は卒業の可否にも関連を有し、学生にとって重大な利害を有する事項であることにも鑑みれば、少なくとも成績評価の場面においてまで完全な教授の自由を認めることはできない。

  そうすると、決定2が憲法23条に反するか否かは、結局、その統制権の行使として合理的か否かによって決せられる事になる。

2(1) そこで、Yはブックレットを授業や課題に用いることは不合理ではなく、また批判的な学生の成績が評価されなかったのは、学問的根拠を有するブックレットを根拠なく否定したためであり、問題はない。また、成績評価アンケートの結果からも公正なものと言えると反論することが考えられる。

  (2) 確かに、ブックレットは用いることは授業追行の選択としてそれ自体不合理なものではない。

   しかし、YがC団体への勧誘を行ったり、ブックレットに批判的な答案の多くが不合格となり、全体的に成績が著しく低いことが確認されていたりすることからすれば、成績評価はYの意見に迎合的か否かによってなされた可能性を排除できず、公正な成績評価であったかは疑問が残る。また、学生評価アンケートは真面目に提出しない学生も一定数存在するほか、Yに好意的でない学生はそもそも回答を差し控えることも考えられるのであり、かかる結果のみを持って成績評価が公正に行われたと見ることはできない。

   一方で、再試験・再評価は不合格者のみを対象としている点で、Yの上記自由への配慮が見て取れる。

  以上を踏まえれば、決定2が統制権の行使として不合理とは言えない。

3 以上から、決定2は23条に反しない。