R3予備試験 商法 再現答案

設問1

1 乙社が本件代金を甲社に対して請求するためには本件取引基本契約の効果が甲社に帰属している必要がある。

2 まず第1にCが甲社の代表権を有することを主張し(349①)、Cとの売買契約は甲社に帰属することを主張すると考えられるが、Cは適法な選任決議を経ているわけではなく、このような主張は認められない。

3 そこで、乙社はCが「代表取締役副社長」との名乗り、本件取引基本契約を締結していることから、354条の適用があり、これにより甲社に効果が帰属すると主張する。

(1)  上記の通り、Cは「代表取締役副社長」という「副社長」という「名称」を名乗っており、また乙社はCが代表権を有しないことについて「善意」であった。なお、重過失は悪意と同視できるためこの要件を満たさないことになるが、本件ではそのような事情もない。

(2)  では、この名称を「付した」と言えるか。同条の趣旨は、代表権を有すると認められる名称を信頼した第三者を、そのような名称を付した会社の犠牲のもと保護する点に趣旨があるから、「付した」と言えるためには、会社の黙示または明示的な承認が存在する必要がある。

  この点、Cが「副社長」と名乗り、取引先と交渉していた事実について、Bら他の取締役は察知しておらず、会社による承認があったとは言えないようにも思える。しかし、Cが「副社長」と名乗ることについては、甲社創設以来、代表取締役として活動し、甲社の全株式を有する1人株主として活動し、あらゆる決議を自らの承認で代替してきたAが了承している事実がある。Aは1年前に代表取締役を退任したものの、未だ甲社の株式の80%を有し、甲社に大きな影響力を有する。また、上述のように本件においてCは適法な選任決議を経ていないものの(349③,甲社定款)AとCは合わせて1000株のうち900株の株式を所持しており、両者の合意は実質的に見れば選任決議と同視しうる。また、Cが代表取締役であることについては「故意」による「不実の登記」が存在するところ、これを「善意の第三者」には対抗できない(908②)ことも考慮する必要がある。

  そうすると、Cの「名称」について実質的に見れば会社の承認と同視しうる事情が存在し、「付した」の要件を満たす。

(3)  以上から、354条により本件取引基本契約の効果が甲社に帰属し、乙社は本件代金の支払いを請求することができる。

設問2

1 甲社のBに対する慰労金の返還請求権の根拠は、不当利得返還請求権(民法703,704)であると解される。

(1) まず、前提として慰労金は「報酬等」(361)に含まれる。同条の趣旨は取締役が自己の報酬を不当に高く設定し、これにより会社ひいては株主に不利益を与えることを防止する点にあるところ、退職慰労金は報酬の後払い的性格を有するから、上記趣旨が妥当する。

(2) そして、上記のような同条の趣旨に鑑みると、「報酬等」の発生は同条柱書の「株主総会決議」による承認がなされて初め報酬が発生するものと解されるから、本件慰労金の支払いは、権原なくしてBに支払われたものとして「法律上の原因」を欠く。

(3) また、これによりBに1800万円の「利得」が生じ、甲社に同額の「損失」が生じている。また両者に因果関係も認められる。

2(1)これに対しBは、BがAから引き抜かれ取締役に就任した際に、Aとの間で退職慰労金を支払う旨の合意があったからこれにより上記の瑕疵は治癒されると反論すると考えられる。

  上記のような同条の趣旨によれば、たとえ株主総会決議による承認がなくとも、全株式を有すものとの同意があれば株主の不利益防止という趣旨が達成できるから、同意によって「報酬等」は発生する。

  退職慰労金は「額が確定していないもの」であるから「具体的な算定方法」について同意が存在していなければならないところ、本件では当時全株式を有するAとの間で本件内規に従って慰労金を支払う旨の合意があるようにも思える。もっとも、本件内規は役職や勤務年数を内容とする基準であるところ、就任時には未だその額の変動が大きく、上記趣旨を達成できないからこの時点で「具体的な算定方法」とは言えず、この同意をもって決議に代替することができない。

(2)  では、Bが退職した後にAは振り込みを依頼した時点で同意を認めることはできないか。

  この時点では既に役職・勤務年数が具体的に確定しており、本件内規も「具体的な算定方法」としての機能を十分に果たしうる。もっとも、この時点ではAは既に1人株主ではない。しかし、Aは株式の80%を有し、また慰労金を支払われるBも10%の株式を有していることに鑑みれば、Aの承諾は十分に株主総会決議と同視しうるものであり、これを総会決議に代替するものと認めても問題はない。

  よって、この時点で報酬は発生し、本件慰労金は「法律上の原因」を有する。

3 以上より、Bは本件慰労金の返還請求を拒みうる。

 

予想:C  評価:A

退職金は出そうだな〜と思っていたので、問題を見た時は、民法の分まで稼ぐつもりでいたが、読み進めるうちに、典型事案とは少しひねっていて、構成に最後まで悩んだ。

両問ともに「一人株主・株主全員の同意」を応用しつつ、共通点・差異を同評価するかと言う問題意識であったと思うが、それをうまく表現できず残念。

設問1・2ともに誤りがあるものの、大枠を捉えていること、上記問題意識を最低限感じさせた論述ができていたこと、原則論を忠実に指摘できていることがA評価の理由かと考えている。

個人的にこの問題を「綺麗に」処理できる人は真に会社法の能力があるんだろうなと思う。