R3予備試験 刑事実務基礎 再現答案

○刑事実務基礎

設問1

1(1) 下線部アの準抗告(刑訴法429条1項2号)は、勾留の要件を満たさないことを理由として行われたものであると考えられるところ、勾留の要件は①「罪を犯したことを疑うにたる相当な理由があること」(同60条一項柱書)②同条各号のいずれかに該当すること③勾留の必要があること(87条)である。

(2) まず、Aは住居不定ではないから1号該当事由は存在しない。よって2号及び3号該当事由が存在しなければ②の要件を欠き、準抗告は認められることになる。

  そこでaの疎明資料を添付することで、Aの両親がAを監督し、事件関係者へと接触させないことを担保し、罪証隠滅(2号)及び逃亡(3号)の恐れがないことを明らかにしようとしたものと考えられる。

(3) またbの疎明資料は、Aが職場に必要不可欠であり、勾留による社会的・経済的不利益が大きいことを示すものであるところ、これにより勾留の必要性がないことを基礎付けるために提出したものと考えられる。

2(1) Aは本件被疑事実を否認しているところ、放火という重大犯罪であることも踏まえればAが逃亡する恐れは十分に認められる。Aの両親はそれぞれ65歳70歳と高齢であることを踏まえると、両親による監督がAの逃亡を防止するための実効性は低く、aの資料をもってしても、逃亡の恐れは否定できない。

 (2) 罪証隠滅のおそれはその対象・態様・客観的可能性・主観的可能性を総合的に考慮して決する。

  本件において罪証隠滅のおそれがあるものとしては、目撃者Wへの威迫が考えられるところ、AはWの顔を認識しているものと考えられ、またK駐車場で待ち伏せすることによってWと接触する機会を得ることも十分に可能である。また、Aは本件被疑事実を否認しているところ、放火という重大犯罪であることも踏まえればAはWの威迫を行う主観的な可能性も認められ、罪証隠滅のおそれがある。上述のようにAの両親による監督は実効性が低く、これにより罪証隠滅のおそれを覆すことはできない。

(3) また、上記のような事情のもとでは、bの資料のような不利益をもって勾留の必要性が損なわれるとは言えない。

(4) 以上から、準抗告を却下すべきと判断した。

設問2

1 WはAと何らの利害関係を有しない第三者であり、虚偽の供述を行うインセンティブが働かない。

2 Wは犯行を約6.8mの地点から目撃しており、また目撃現場には該当が存在し、当日の天候は晴れであったこと、Wの視力は両目ともに1.2と十分にあり、かつ障害もないことからすればWの目撃が誤りであったとは考えにくい。

3 Wの犯人に関する服装等の供述内容は現場の防犯カメラやA本人の特徴と合致しており、Wの認識に誤りが生じていたとは考えにくい。

4 Wの供述は具体性・迫真性に富んでいる。

5 以上からすれば、Wの供述が十分に信用に値する。

設問3

1 上記措置は刑訴法157条の5第1項を根拠として行われた遮蔽措置である。

2 同条は犯罪の性質や証人の状態等を考慮し、①「精神の平穏を著しく害されるおそれ」があるとき②相当と認めるときに遮蔽措置を講ずることができると規定している。

3 まず、本件被疑事実は放火という重大犯罪であり、証人であるWは27歳の女性である。また、WはAからの復讐をおそれており、かつ人前で話すのが得意ではないという性質もある。

  そうすると、Aとの間で遮蔽措置を講じなければWに「精神の平穏を著しく害されるおそれ」が生じるといえ、遮蔽措置を講ずることが相当と言える。

4 以上からエのような措置をとった。

設問4

1 証人尋問においては「供述を明確にするため必要があるとき」には裁判長の許可を受け、図面等を示すことができる(刑事訴訟法規則197の12第1項)が、その際には「証人に不当な影響」を与えないように注意する必要がある(同条2項、197の11第2項)。

  そして、このような規定は、証人尋問は、証人が体験した事実・記憶を証言させることが原則であり、書面の提示は例外的な場合に限られている。そして、このような書面等の提示によって、証人の記憶等に影響を及ぼし、証言が歪む危険を回避することが上記の規定の趣旨であると解される。

2 本件では、Wが犯行を目撃した際の位置関係についての証言が求められているところ、このような位置関係は口頭による報告に馴染まず、供述の明確性のために見取り図を用いる必要性があるが、仮にこの見取り図にWの現場指示の記号などがあれば、Wの証言はそのような記号に影響を受けて行われ、「不当な影響」を及ぼす恐れがあるため、オのような釈明を行ったものと考えられる。

 

予想:CかB   評価:B(合わせて)

刑事は事実認定2問が勝負だったと思うが、時間に余裕があったのに何故か見切り発車。40分近く時間を余らせる大ミス。今思うと、前日なかなか寝付けず、3時間ほどしか眠れなかったのでその影響もあるかなと思う。

手続については、遮蔽措置について被告人と傍聴人間で差異を意識できなかったのが痛いが、短答対策の成果もあり、条文等は一発で引けたので、ぼちぼちだと思う。短答対策についてTwitterを見てると割と蔑ろにしている人が多いが、一部の優秀な方を除き、短答は時間をかけないと安定しない(本番下振れて落ちる)上、論文・口述でも活きるので早めかつ継続的な対策をおすすめしたい。

 

 

R3予備試験 民事実務基礎 再現答案

○民事実務基礎

設問1

(1) 賃貸借契約に基づく賃料支払請求権 1個

(2) YはXに対し、55万円を支払え。

(3) ①XはYに対し、令和2年6月15日、甲建物を賃料月額10万円、存続期間3年として貸し渡した。

   ②令和2年12月31日は経過した。

(4) ⅰ抗弁とは、請求原因事実と両立し、発生した法効果を消滅・障害・阻止する効果を有する事実をいう。

  上記事実は上記①②の事実から生じた賃料支払請求権のうち5万円に関する部分を消滅させるいわゆる一部抗弁であるから、抗弁としての性質を有する。

  従って、上記主張を持って抗弁として取り扱うべきである。

  ⅱ上記事実はXにとって不利益な事実を認める旨の陳述であり、かつ相手方の陳述に先行するものであるから、先行自白としての意味を有する。

  先行自白は相手方が援用すれば、通常の自白と同様に不要証効(179①)、裁判所拘束力、当事者拘束力を発生させる。また、仮に援用がなくとも、裁判所が上記事実が存在するとの心象を抱けば、上記主張を判決の基礎とすることができる。

設問2

1 債権者代位(423)の方法によれば、債権回収を図りうるが、被代位者の処分権限は失われない(423の3)から、仮にAがYに売掛債務を支払えばYにはめぼしい財産がない以上、Yは満足を得ることができない可能性がある。

2 一方、仮差し押さえ(保全20)によれば、これにより債務者弁済禁止効(53)が生じるから、売掛債権が消滅する可能性はなくなり、ここから満足を得ることができる。

3 以上から後者の方法。

設問3

(1)ⅰ①BはXに対し、令和2年8月1日、弁済期を同年10月15日として、Xに50万円を貸し渡した。

②令和2年10月15日は経過した。

③Xは、Bと上記貸金債権の履行に変えて、XのYに対する貸金債権を譲り渡すことを合意した。

  ⅱ債務者への通知・承認は譲渡人が債務者に対する対抗するための要件であって、債務者が譲受人・譲渡人に対して対抗するための要件ではないから。

(2)  未だ権利が未発生のためならない。

設問4

第1 本件契約書について

1 文書の成立の真正について

    私文書は「本人の署名または押印」があればその成立の真正が推定される(228④)ところ、その署名または押印は意思に基づくものでなければならない。

(1) まず、本件契約書におけるYの署名は、明らかにXの筆跡によるものであり、意思に基づくものとは言えない。

(2) そして、押印については、実印は通常他人に用いられることはないとの経験則から、印影と印象が一致すれば、意思に基づく押印が事実上推定され、ひいては文書全体の成立の真正が推定される。

  本件契約書においてはYの印鑑と同一の印影による押印ではあるものの、これは岩ゆる三門判であり、上記経験則が妥当しないから、意思に基づく押印が事実上推定されるわけではない。

また、仮に推定が働いても、当該押印はXがYの印鑑を盗用してなされたものであるから、意思に基づく押印であると考えることはできない。Xは週2日という頻度でYたくを訪れていたところ、三門判はY宅の今の引き出しという探すのが困難とは言えない場所に保管されていたのであり、その在り処を知っていたとしても不思議ではなく、また実際に12月中旬に留守番でXがY宅を捜索する機会も存在している。

(3) 以上から、本件契約書の成立の真正は否定される。

2 そうすると、本件契約書は形式的証拠力が否定されるから、本件契約書をもって賃貸借契約があったとの事実を推認することはできない。

第2 その他の事情

1 Xの主張によれば、XとYは令和2年7月から本件建物の賃貸借契約を締結しているものの、令和3年1月になるまで賃料の請求を行っておらず、不自然な行動がある。この点、XはYの店の経営がうまくいっていないことや娘の夫であることから賃料の支払いを求めなかったというが、Yの店の経営がうまくいっていない事実は存在せず、合理的な説明ではない。また、Xの娘とYは婚姻していたものの、令和3年に入り不仲となり別居するようになったのであり、存在しない賃貸借契約を主張する動機もある。

  また、YはXの主張する賃貸借契約の初めての賃料支払日である令和2年7月30日に5万円を弁済しているが、これはXから借りた金を返しただけであり、賃料を支払ったわけではない。

2 以上からすれば、やはり両者の間に賃貸借契約が締結されたとの事実は認められない。

 

予想:CかB 評価:B(合わせて)

実務は最低Bは取りたいと思っていた。

要件事実は、論文当時、経過と到来をきちんと理解していない、「履行」と「成立要件」を意識していないなど、今思い返すと、勉強が不十分であり、本番とても焦った。近時は要件事実は論文・口述とも難易度が上昇しているし、かつこれらは合否に直結するので、早めかつ濃厚な対策をすべきと思う。

細かい問題はどうせみんなできないと、事実認定に力を入れたが、この判断は間違っていないと思う。民事実務は要件事実と事実認定でほぼ決まると思う。

事実認定では、「三文判ってどうすんだ?」となったが、①推定否定 ②推定覆す事情として使うの2つが思い浮かんだので、両対応できるような論述とした。

 

 

 

R3予備試験 刑訴 再現答案

設問1

1 ①の逮捕は準現行犯逮捕(212)として適法か。

2 準現行犯逮捕の要件は、①同条各号のいずれかに該当すること②「罪を行い終ってから間がないと明らかに認められるとき」であることである。

3 まず、甲は、Pらから「I署の者ですが、話を聞きたいのですが、ちょっといいですか。」と声をかけられた途端に逃走しており、「誰何されて逃走しようとする時」(4号)にあたる。

  また、甲は被害品と特徴が一致するカバンを所持していたところ、「明らかに犯罪のように供したと思われる…その他の物を所持しているとき」(2号)に該当する。確かに、被害品のカバンは「凶器」や「贓物」とは性質が異なるようにも思えるが、本件被疑事実が発生してからわずか2時間、直線5キロの距離に被害品と特徴を合致するカバンを犯行と何ら関係のない第三者が所持しているとは考えにくいから、当該バックも2号に該当する物に準ずるものと判断しうる。

4 準現行犯逮捕が無令状逮捕であっても許容される趣旨は、誤認逮捕の恐れが低く、裁判官による事前の審査を経る必要性が低い点にある。従って、要件②が認められるためには、(1)時間的場所的接着性(2)犯人及び犯行の明白性が必要となる。

  ①逮捕は被疑事実が発生してから2時間、直線5キロの距離で行われているから時間的場所的接着性は一定程度認められる。

  また、甲は本件被疑事実の被害品を所持しているところ、被害者Vの傷害や供述、Pらは防犯カメラの映像から本件被害品の特徴等を確認していることから、甲が犯人であることは明白であると言える。さらに、上記のような事情からすれば被害品であるバックを所持している男2人組が犯行に及んでいたことも明らかであるところ、ここから甲が犯行に及んだことも明らかと言える。

5 以上より①の逮捕は適法である。

設問2

1 ②の措置は接見指定(39③)として適法か。接見指定は①「公訴の提起前」②「捜査のため必要がある時」の2つが要件となる。

2 まず、甲は公訴提起されていないことは明らかである。

3 接見交通権は弁護人選任権(憲法34)を実質化する重要な権利であるからこれを制限できるのは例外的な場合に限られる。

  そこで「捜査のため必要がある時」とは、現に取調べや実況見分の最中であるとか、もしくは間近にその予定があるなどして、接見を認めると、犯罪捜査に著しい障害をきたす場合をいう。

  これを本件についてみると、甲は午後5時ごろから実況見分に立ち会う予定が存在している。この実況見分は犯行に用いられたナイフの発見を目的としたものであるところ、甲とSの接見が終了してからでは、周囲が暗くなってしまい、実況見分を行うことが困難となってしまう。加えて、この実況見分を実施する場所は具体的に定まっているものではなく、甲の案内によることが必要不可欠なのであり、甲が同伴しなければならない必要性が高い。さらに、本件被疑事実に関与したもう一人の男の行方は未だ判明しておらず、逃走しているところ、仮に実況見分を延期し、次の日以降に行うこととすれば、その間にその男により本件ナイフが隠滅される恐れも十分に認められ、重要な証拠を失う恐れもある。

  以上を踏まえると、本件では甲に実況見分の予定が間近にあると認められ、犯罪捜査に著しい支障をきたすと言えるから、「捜査のため必要がある時」の要件を満たす。

4 接見指定の要件を満たすとしても「不当な権利の侵害」となってはならない(同但書)。そこで、②の措置が不当な権利侵害とならないか検討する。

  本件接見は初回接見であるところ、初回接見は弁護人選任権の出発点をなし、両者が相互に情報を伝達して防御の方針を決定するなど被疑者の防御にとって重要な機会である。

  そうすると、初回接見にあたっては、接見を認めることができないか検討し、弁護人となろうとするものと協議し、比較的短時間であってもこれを認めることができるならばこれを認めなければ「不当な権利の侵害」にあたる。

  これを本件についてみると、RはSから連絡を受け、接見を認めることができるか検討したものの、上述したとおり、実況見分を遅らせれば当日中に実況見分を行うことができなくなってしまうため、その旨をSに伝え、Sと協議をしたものの両者の意見が折り合わず、結局②の措置に至っている。そうすると、検討・協議をへたといエルから、「不当な権利の侵害」とはいえない

5 以上から②の措置も適法である。

 

予想:B  評価:A

※再現不十分。両方もう少し当てはめで色々書いた気がする

問題を見た瞬間に当てはめゲーと理解したものの、思ったよりうまくいかず(特に準現)、終了当初は肩を落とした。

また、「贓物」の定義を知らず(恥ずかしい)、2号否定しそうになったが、複数該当しないと明らか違法っぽいなあと思い、なんかごちゃごちゃ書いてしまった。

準現では必要性の検討もれ(チェックしてたのに...)、接見では二段目の規範が微妙という細かいミスはあったが、当てはめでゴリ押したのだと思う。

思ったより他の受験生がよくなく、発表前にはAくるかもなとも思っていた。

 

 

 

 

 

R3予備試験 刑法 再現答案

第1 乙の罪責

1 乙がXの首を絞め窒息死させた行為につき同意殺人罪(202後段)が成立しないか。

2 上記行為は殺人の実行行為たりうる行為であり、これによりXの死という結果が生じている。

3 そして、Xは「死にたい、もう殺してくれ。」と言っていたことから「嘱託」があるようにも思える。しかし、乙はXの態度から上記発言が真意でないことを認識していたし、「あれはうそだ、もうやめてくれ」と言われたのちも上記行為を継続しているのであり、「嘱託」があったと考えることはできない。

4 以上から、乙には同意殺人罪(202後段)ではなく、殺人罪が成立する。

第2 甲の在籍

1 甲がY宅から本件ダンボールを盗んだ行為につき、窃盗罪(235)が成立しないか。

(1) 「他人の物」とは、他人の占有する財物をいうところ、自己の所有物であっても他人の占有している財物は「他人の物」にあたる(242)。

(2) 「窃取」とは他人の物の支配を自己または第三者に移す行為を言うから、上記行為は「窃取」にあたる

(3)  甲は上記行為を認識・認容していたから故意がある。

(4)  明文の用件ではないものの、使用窃盗及び毀棄隠匿罪(以下)との区別のために不法領得の意志が要求される。不法領得の意志とは、権利者を排除し、物から何らかの経済的効用を得ようとする意志をいう。

   これを本件についてみると、甲は本件段ボール箱をYに返還しようとする意志は認められないし、本件ダンボール箱を取り返すことで、脱税の通報や口止め料100万円の支払いを免れることができ、さらに本件帳簿を取引に用いることができるから、何らかの経済的効用を得ると言える。

(5)  以上から、上記行為に窃盗罪が成立する。

2 甲が本件帳簿にライターで火をつけ、ドラム缶に投入した行為に建造部等以外放火罪(110②)が成立しないか。

(1) 放火とは焼損を惹起する行為を言い、焼損とは、目的物が火の媒介物を離れ、独立に燃焼を開始することをいう。

  ライターによって帳簿という燃えやすい物質に着火する行為はそれ自体焼損の危険が存在するから上記行為は放火にあたる。また、上記行為により、本件帳簿は独立に燃焼を開始し、「焼損」した。

(2) 「公共の危険」とは、放火による危険は延焼の危険にとどまらないことから、延焼の危険のみならず、他人の生命・身体・財産に対する危険を含む。

  本件では、上記行為によって漁網へと延焼し、もって釣り人5人及び原動機付自転車に危険が生じているから、「公共の危険」が生じたと言える。

(3) では、「公共の危険」は上記行為に「よって」生じたと言えるか。因果関係の有無が問題となる。

  因果関係は行為の危険が結果に現実化したと言いうるときに認められる。

  上記行為は立ち入り禁止の防波堤で帳簿をドラム缶に入れて燃やすことを内容とした行為であるところ、このような場所で紙を燃やせば、それが舞い上がり霧散することは通常想定しうることであるから、上記行為には網への延焼を通して「公共の危険」を生じさせる危険が含まれていたといえ、これが現実化したと言えるから、因果関係も認められる。

(4) 甲は上記行為を認識・認容していることから故意が認められる。なお、甲は上記のような「公共の危険」が生じたことを認識すらしていないが、「公共の危険」は故意の対象にならない。

  なぜなら、「よって」との文言から「公共の危険」は加重結果であると考えられるし、仮にこの故意を求めれば実質的に108.109条の故意を求めることになり妥当でないからである。

(5)  以上から、上記行為に建造部等以外放火罪(110②)が成立する。

3 甲がXの首を絞める乙を止めなかった行為につき、殺人罪の幇助犯(199.62①)が成立しないか。

(1) まず、甲はXは死について承諾があるものと真に誤信しており、またXの死を望んでいたわけではないから正犯意志が認められず、また乙との意思連絡も認められないから、共同正犯(60)も成立せず、正犯として罪責を負わない。

(2)  幇助犯の成立要件は①幇助行為②正犯の行為との因果関係③幇助の故意である。

(3)  まず、上記行為は不作為による幇助であるところ、処罰範囲限定の見地から、幇助行為と言えるためには(ⅰ)作為義務(ⅱ)作為可能性及び作為容易性が要求される。

  これを本件についてみると、上記行為当時、Xを助けることができたのは甲のみであるため排他的支配が認められ、またXは甲の実父であり、Yは妻であるのだから、乙を止め、Xを助けるべき条理上の義務があった。そうすると、甲は乙に声をかけたり、乙の両手をXの首から引き離そうとしたりするべき作為義務が存在し、かつこれは容易かつ可能であるから、これに反する不作為は幇助行為といえる。

(4) 幇助犯における因果関係は、必ずしも犯行を確実に防止し得たものである必要はなく、犯行を困難にしうるものであれば足りる。

   よって、因果関係も認められる。

(5)  甲は客観的には殺人の幇助を行っているが、主観的には同意殺人の幇助を認識していたのであり、故意が認められるか。

  故意とは、犯罪事実の認識認容を言うところ、異なる構成要件に該当する事実を認識していた場合、故意は原則として認められない。もっとも、認識事実と実現事実の間に構成要件的重なり合いが認められる場合、軽い罪の限度で犯罪事実の認識・認容があったと言い得るから、この場合には軽い罪の故意が認められる。

   甲は、客観的に殺人罪、主観的に同意殺人罪の幇助を実現しているところ、両罪は減軽類型に該当するものであるから、重なり合いが認められる。

   よって、同意殺人の幇助の故意が認められる。

(6)  以上より、上記行為に同意殺人罪の幇助犯が成立する。

 

予想:B  評価:A

刑法は最後の抽象的事実の錯誤の問題を故意の問題としてしまった以外は大体ミスらしいミスはしていなかったと思う。1つや2つのミスなら十分Aがつくことを学べた。

刑事系は特に得意とは思っていないが、短答も満点取れたし、司法試験でも得点源にしたい。